フランス旅行記の第3回となる今回は、パリから電車で30分で行ける古城『シャンティイ城』(Château de Chantilly)をご紹介します。
日本ではあまり聞きなれない場所かもしれません。実は僕も今回クロエ (前々回の記事を参照) に教えてもらうまでシャンティイ城の名前を聞いたこともありませんでした。
しかし、実際に行ってみると歴史あるお城と美術館のような絵画コレクション、広大な庭園を持つ素晴らしい場所でした!
シャンティイ城の歴史
『シャンティイ城』は14世紀に建築が始まったルネサンス様式のお城です。
シャンティイの最初の領主であるブティエ家にはじまり、何人ものフランス貴族の邸宅として使用されてきました。
シャンティイ城は「グランシャトー」と「プチシャトー」から成ります。
プチシャトーは16世紀にアンヌ・ド・モンモランシーというフランソワ1世に仕えた軍人により建てられました。
グランシャトーは、フランス革命の際に一度取り壊されてしまいましたが、19世紀にフランスの王族オマール公アンリ・ドルレアンによって再建されました。
アンリ・ドルレアンは最後のフランス王となったルイ=フィリップの息子で、コンデ公ルイ6世アンリからシャンティイ城を含む莫大な資産を相続しましたが、老年期にはお城や美術品などをフランス学士院へ寄付しました。
シャンティイ城の中へ
チケットを購入してシャンティイ城の敷地内へ入っていきます。芝生の向こうに見えるのがシャンティイ城です。なかなかの大きさで、とっても雰囲気があります。
それでは、門を潜って城内へ入っていきます。
城内に入ると、螺旋階段のあるホールがあります。天井が高くて開放感のあるスペースです。
オフシーズンということもあってか、城内に人はそれほどおらず、静かに見学することができました。
一番の見どころのひとつ「図書室」
シャンティイ城の見どころのひとつが図書室です。読書を愛したオマール公アンリ・ドルレアンがヨーロッパ中の書店やオークションから手に入れた書籍が壁一面に並べられています。
この美しい図書室は、それらの図書を収めるために19世紀に建築家のオノレ・ドメによってデザインされました。
アンリ・ドルレアンの愛読家ぶりは自他共に認めるものだったようで、友人に宛てた手紙には「ビブリオマニア (読書中毒) を患ってしまったようだ」と書いたほどだそうです。
この部屋にあるのは19,000冊程度ですが、シャンティイ城にあるコレクション全体では60,000冊にものぼります。
豪華な装飾に彩られた部屋の数々
シャンティイ城の1階部分にはコンデ公が応接室として使用した広間があります。大きなシャンデリアや壁一面に飾られた絵画、豪華な装飾などは18世紀を象徴するスタイルです。
その一部はフランス革命の際に強奪などに合いますが、19世紀にアンリ・ドルレアンによって再びその姿を取り戻します。
現在はコンデ公の戦いの歴史を描いた11枚の絵画が飾られています。
こちらはコンデ公の執務室で、謁見を行った場所でもあります。白い壁にたくさんの金色の装飾があしらわれた美しい壁が特徴です。
ネオクラシカル様式の椅子はアンリ・ドルレアンの父であるルイ・フィリップのものだったものです。
応接室や執務室の他にも、寝室や音楽室、控えの間や守衛の部屋などがあります。
フランス第2の規模を誇る絵画のギャラリー
シャンティイ城には、主にアンリ・ドルレアンが収集した美術品を飾る為に作られたアート・ギャラリーがあります。
その絵画コレクションはあのルーブル美術館に次いでフランスで2番目の規模だそうです。お城の中なのに美術館のような空間です。
アンリ・ドルレアンの遺志によって、美術品の位置は19世紀から変わっておらず、当時のままの姿を見ることができます。
アート・ギャラリーの先にあるロタンダという円形の部分にはルネッサンス期のイタリアの名作が飾られています。
ロタンダの天井も美しい絵画と彫刻で飾られていました。
肖像画のギャラリーやステンドグラス
「クルーエ・ルーム」と呼ばれるこちらの部屋には、16世紀に活躍した肖像画家のジャン・クルーエやコールネイユ・ド・リヨンの作品を含む約90の肖像画が飾られています。
中にはジャン・クルーエとその息子のフランソワ・クルーエによって描かれた16世紀のフランス王や王妃の肖像画や、かつてシャンティイ城の城主であったアンヌ・ド・モンモランシーの肖像画があります。
「プシュケ・ギャラリー」の窓に飾られているのは44枚のステンドグラス。
これらのステンドグラスはローマ帝国時代の作家アプレイウスの作品「黄金のロバ (The Golden Ass)」に登場するプシュケの物語をモノクロームで描いたものです。
これらのステンドグラスは、シャンティイ城の城主であったアンヌ・ド・モンモランシーが有していたエクアン城のギャラリーにあったものが16世紀にここへ移されました。
19世紀末に作られたルネサンス様式の「スタッグ・ルーム」は応接室やダイニングルームとして利用されていました。
こちらにも多くの芸術品が飾られていますが、中でも目を引くのが壁にかけられた大きなタペストリーです。
これらは「ゴブラン・マヌファクトリ」というパリの有名なタペストリー工場で17世紀に作られた作品です。
シャンティイ城にある3つの庭園
シャンティイ城は湖の上に浮かぶルネサンス様式の美しい古城です。しかし、そのお城は敷地のほんの一部に過ぎず、その多くは広大な庭園が占めています。
庭園は大きく3つのエリアに分かれており、お城の前の「フランス式庭園」、田舎風の集落とありのままの自然が残る「アングロ=チャイニーズ・ガーデン」、そしてイギリス風の「イングリッシュ・ガーデン」というそれぞれ異なるタイプの庭園があります。
ル・ノートルがデザインした「フランス式庭園」
お城の前にある庭園は、ヴェルサイユ宮殿やチュイルリー庭園をデザインしたアンドレ・ル・ノートルによって17世紀に設計されたフランス式の庭園です。冬でも綺麗な芝生が広がっていました。
フランス式庭園の特徴は左右対象の構図と、その中に散りばめられた緑や池です。
シャンティイ城の庭園は、アンドレ・ル・ノートルがデザインした庭園の中でも、最も大きな池を用いた庭園のひとつです。
こうして見ると庭園の大部分を池が占めているのが分かります。
池にはたくさんの噴水があり、それぞれの噴水が5mにもなる水しぶきを上げます。
庭園の池には白鳥が泳いでいます。その姿はシャンティイ城にとってもよく合います。17世紀から変わらない風景なのでしょう。
田舎風の集落がある「アングロ=チャイニーズ・ガーデン」
庭園はお城の前だけでなく、東西に大きく広がっています。特に東側には「アングロ=チャイニーズ・ガーデン」(The Anglo-Chinese garden) という広大な庭園があります。
アングロ=チャイニーズ・ガーデンは、シャンティイ城の前にある池から流れる小川を挟んだ場所に広がっています。
小川の脇にある小道を歩いていると、小川の上をアヒルの親子が泳いでいました。その姿はとても愛らしいです。
庭園を進んでいくと、田舎風の小さな家が並ぶ集落に出ました。この集落は、ヴェルサイユ宮殿にある小トリアノン宮殿にマリー・アントワネットが作らせた集落のモデルにもなっています。
集落の近くにあるこちらの水車がついた建物は、「アモー (Hameau)」というレストランです。Hameauとは、フランス語で「集落」を意味します。
残念ながら冬の間は営業しておらず、入ることはできませんでした。
ありのままの自然を活かした「プティ・パルク」
小川の南には「プティ・パルク」(Petit Parc=小さな公園) という自然豊かなエリアが広がっています。
このエリアはシャンティイ城の庭園の中でも最も広大なエリアで、全然「Petit (小さな)」じゃありません。
まるで山の中を散策しているような感覚で、とても清々しい気分になりました。
木々に囲まれた小道の上を歩いて奥へと向かいます。12月の寒い時期に庭園を散策している人はほとんどおらず、まるで貸切のような状態でした。
自然に囲まれ、落ち葉を踏む音と風の音だけが周囲に響く中で散策していると、無心になれました。当時の城主たちもこうやって庭園を散策したのでしょうか。
イギリス風の庭園「イングリッシュ・ガーデン」
ホース・ミュージアムと隣接する敷地の西側には「イングリッシュ・ガーデン」(English Garden) というイギリス式の庭園が広がっています。
イングリッシュ・ガーデンは、19世紀の初めにヴィクトル・デュボワという建築家によって設計されました。
アンドレ・ル・ノートルが設計した庭園のうち、フランス革命の際に壊れてしまった部分に作られています。
写真は「ヴィーナスの神殿」というモニュメント。中心には愛と美の象徴であるヴィーナスの像が立っています。
オリジナルの庭園と同じく、大きな池を中心に作られています。写真の池の上にある場所は「Ile d’Amour」(愛の島) という場所。
コンデ公が客を迎えてガーデン・パーティを行う為に19世紀に作られたそうです。真ん中に立つエロス (ギリシャ神話に登場する愛の神) にちなんで名付けられました。
オレンジ色の落ち葉がきれいな小道を通ってシャンティイ城へ戻ってきました。この辺りも散歩するのにとっても良さそうな雰囲気です。家の近くにこんな庭園があればいいんですが…。
庭園から湖に浮かぶシャンティイ城が見えます。その姿は先ほどよりもさらに美しく見えます。美しい庭園を歩いてきた後は、少し自分の心も穏やかになった気がします。
フランスの作家マルセル・プルーストは言いました。「発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ」と。
その景色がどう映るかは自分の心次第なのかもしれません。
シャンティイ城への行き方
パリからシャンティイ城へ行くには、「パリ北駅」(Gare du Nord) から電車に乗ります。
フランスの国鉄であるSNCFのクレイユ駅 (Creil) 行きの電車に乗車し、「シャンティイ・グーヴィユー駅」(Chantilly-Gouvieux) で降ります。
電車は1時間に1本程度なので、あらかじめ時間を調べておくと良いでしょう。パリ北駅からシャンティイ・グーヴィユー駅までは約25分で到着します。
シャンティイ・グーヴィユー駅からシャンティイ城までは徒歩30分くらいです。競馬場の脇を通って、ホース・ミュージアムの前を過ぎるとシャンティイ城に到着します。
駅の前からタクシーも出ているので、時間を短縮したい方は利用すると良いでしょう。タクシーだと駅から5分ほどでシャンティイ城に着きます。料金は10ユーロ程度でした。
シャンティイ城からの帰りは、守衛さん(チケット売り場の近くの建物にいます)に頼むとタクシーを呼んでくれます。流しのタクシーは走っていません。
自分でシャンティイ城に行く自信がない人は、パリ発のオプショナルツアーを利用すると便利です。
往復のバスとシャンティイ城の入場チケットがセットになったものがほとんどなので、全てお任せでOKです。
シャンティイ城へのオプショナルツアーは「VELTRA」のホームページで検索できます。
シャンティイ城の営業時間・入場料
■シャンティイ城 (Château de Chantilly) | ||
営業時間 | 夏期(3月下旬~10月下旬) | 10:00〜18:00 |
冬季(10月下旬〜3月下旬) | 10:30〜17:00 | |
入場料 | 17ユーロ (シャンティイ城、庭園、ホースミュージアム) | |
休業日 | 火曜日(冬季のみ)、1/1、12/25、1月上旬〜下旬 | |
HP (英語) | http://www.domainedechantilly.com/en/ |
※2018年12月現在。最新の情報はホームページをご確認ください。
チケットの購入方法
チケット売り場はシャンティイ城の門を通った左側にあります。
チケットにはいくつか種類がありますが、「Domaine Ticket」(ドメーヌ・チケット) という、お城と庭園、ホース・ミュージアムの全てに入れるチケットの料金は17ユーロです。
庭園だけなら8ユーロ (11月〜3月は6ユーロ) ですが、せっかくなら城内にも入りたいところです。
家族で行く場合は、大人2人と子供2人で48ユーロ (4人で13ユーロお得) のチケットもあります。